終活・生前遺品整理を始める(1) 

概要

 生まれてからの数十年間で、身の回りにはガラクタが蓄積している。これを整理するのはたいへんで、気力や体力が不可欠だ。加齢とともに、だんだん、できなくなる。できるだけ、頭や体が何とか働く年齢、すなわち、およそ健康寿命(男72.68歳、女75.38歳)までを目標に、「自分なりの余生のために必要な準備」や「終活」は、一回は終了させなければならない。少なくとも、長年のゴミ、「見苦しいもの、人に見られたくないもの」は、元気なうちに、早めに処分しておきたいものだ。

負の遺産を残したくない

 近年は、「終活」や親の死後の「実家の片付け」、「遺品整理業者」などが注目を集めている。実際、親の死後は、古い家具や家電、食器や鍋、衣類や布団を含め、実家の建物と家財全部が膨大なゴミの山として残ることは珍しくない。この問題は、親子の同居が減っていること、生前に上手に身辺整理ができていないこと、物が多いこと、戸数の減少が背景にあるのかもしれない。

 人口減少や過疎化の進展に伴う「空き家問題」、「墓じまい」ともからんで、実家の建物と家財等の解体・廃棄処分の費用、片付けの手間や疲労感は遺族に大きな負担となっている。莫大な財産を残せないとしても、せめて、自分は、そういった「負の遺産」を残さないようにしたいものだ。

 いずれにしても、年金の面でも、身辺整理の面でも、今後は、ますます、高齢者にとっては悩みの多い時代になるばかりだ。せめて、生きているうちは、周囲に迷惑をかけずに、楽しく充実した生活を送りたい。それなりに見苦しくなく、健康的に人並みに過ごしたい。そして、最後ぐらいは、迷惑をかけないように始末しておきたい。

 しかし、高齢になれば、遅かれ早かれ、残された期間は限られている。脳梗塞や心不全などで予兆無く死ぬ人も多い。大げさな話では無く、実際に、明日、死ぬかもしれない。「立つ鳥、跡を濁さず」というが、少なくとも、長年のゴミ、見苦しいもの、人に見られたくないものは早めに処分しておきたいものだ。

 ところが、実際には、引き出し一つ、押し入れ一つを片付けるのも、大変な苦労である。本当に年を取ってからでは、知恵や体力、根気がなくなり、片づけられなくなる。すぐに、肩や腰や膝が痛くなるし、何しろ、重いものは持てない。面倒でたいへんな作業だが、放置すれば、ますます体力的には厳しくなってくる。

 できるだけ、頭や体が何とか働く年齢、すなわち、およそ健康寿命(男72.68歳、女75.38歳)までを目標に、「自分なりの余生のために必要な準備」や「終活」は、一回は概ね終了させなければならない。

 その機会を逃すと、おそらく、もう、片付けられない。皆、それができないまま、年を重ねてしまったから、死後、遺品整理業者が繁盛しているのだと思う。

 「何かをするならば、健康寿命までに」と考えた場合、トンネルの出口は見えている。もはや、実質的には残り少ない人生なのだ。

 いずれにしても、こうした取り組みは、「人生100年時代」を視野にした晩年の生活設計かつ実践活動であり、人生の集大成・後片付けそのものでもある。

 「介護」、「実家の片付問題」、「遺品整理」、「空き家問題」、「相続による内紛」などで、子や孫に手間や心配をかけさせない対策のひとつにもなる。余生の充実という意味でも、終活といった意味でも、自分の人生の締めくくりという意味でも重大なプロセスだ。

自分で生前遺品整理をする

 自宅には、数十年の間に蓄積してしまった衣類、書籍や各種資料、毎年の手帳や年賀状、賞状、卒業証書、パソコンのデータ、何かの記念品やノート、写真、日記、昔のビデオテープ、ビデオ、CD、カセットテープ、趣味の品などが山積しているのではないか。これらは、本人の死後は不用品だ。

 誰でも、思い出のある品を廃棄することには抵抗感がある。思い出があるし、もったいないような気もするので、なかなか捨てられない。だからこそ、遺品として残されても、遺族は、もっと大迷惑である。極論を言えば、残してほしいのは現金、預金、株券、金の延べ棒、価値のある土地などだけだ。

 遺品を、そのまま残しておいた場合、自分の死後、最終的には遺族または遺品整理業者が整理することになる。しかし、遺族や他人には見られたくない手紙や品物、何かの名簿や住所録等の個人情報などが入っていないだろうか。

 また、いかに大切なものでも、第三者から見たら価値がわからず、ゴミにしか見えないものや、汚いもの、笑いものになる品もあるに違いない。

 「断捨離(だんしゃり)」という言葉が流行したことがあるが、押し入れ一つ分でも、実際に片付けることや捨てることは面倒だし、重いし、惜しいし、寒いし、暑いし、大変なことである。

 最近は、生前遺品整理の業者もある。しかし、自分の人生の片づけだから、他の人が整理する前に、自分自身で、最低限の整理をしておく必要がある。「本人でなければ、できない整理の仕方」があるはずだ。

 そこで、いったん、「自分は、昨日、死んでしまった」というつもりで、「幽霊の自分」が「自分の遺品」を精査し、整理するのだ。

 単なる大掃除ではなく、ファイル一冊ごとの中身まで確認して整理する「生前遺品整理」だ。それが終わった後で、家具や重いものなどは、地方自治体の粗大ごみの回収や生前遺品整理業者に頼むという2段階方式もあるのではないか。

 なお、せっかく生前遺品整理をしても、新たに増やしては意味がない。もう、家具、雑貨、衣類なども、増やさないことが大事だ。高齢者になったら、やむなく、一つ買うのなら、必ず、どれか一つを捨てることだ。

生前遺品整理の留意点

 生前の遺品整理にあたっては、いくつかの留意点がある。

やたらに誰かに贈呈しないこと

 まず、よほど良いものか貴重なものでない限り、「不要品を、やたらに誰かに贈呈しても迷惑だ」ということを認識しなければならない。片付けで出てきた中古品を、「これは良い物だから、どうぞ」と言われても、本音は迷惑な場合がほとんどだと思った方が良い。

 災害の支援物資として、「古着や押し入れの不用品の詰め合わせ」を被災地に送りつける発想と似ている。送る側の人は善行を施したようなつもりで気持ち良いのだろうが、受け取る側は本当に迷惑なのだ。

 被災地でなくても、「片付けたから」と言って、食器や衣類で同じようなことをする人もいる。例えば、ブランド品の茶器セット、高級花瓶などは、価値があるのはわかるが、押し入れの中に何十年も眠っていた物をもらっても、狭い家に住んでいる人は収納する場所が無い。また、何十年も眠らせることになる。相手によっては、無駄なものを押し付けられたあげく、返礼の負担をかける。

 良いと思うから、かつて、自分は入手した品物かもしれないが食器や洋服などは、サイズや色柄の趣味も違うし、時代も違う。未使用でも無料でも不要だと思う人も多いのである。どうしても捨てるのが惜しいものなら、子どもや親族や親友など、ごく親しい人にだけ、「この中で、貰ってもらえるものがあれば、どうぞ」という選ばせる方法が良いと思う。

ただ同然でも、売ったほうが手間がない

 前項の方法で、自分が生きているうちに、「自分の遺品」の行き先を決めた後、その他の遺品は、残念でも、「自分が死んだ」、「これは遺品だ」と思って、売却するか廃棄することだ。もちろん、安く買いたたかれるが、廃棄に費用と時間がかからないだけ、ありがたいと思うべきだろう。

高性能シュレッダーを用意する、溶解業者に持ち込む

 なお、この片付けの際には、古い証書や領収書、賞状、表彰状、書類、年賀状や手紙、手帳や日記、役所関係の通知、期限切れの保険の証書などが大量に出てくる。連続使用可能時間の長い高性能シュレッダーを入手しておくと、本当に助かる。

 ただし、量が膨大すぎる場合、製本された名簿、金具のついたファイルや冊子などは、家庭用シュレッダーでは無理だ。段ボールに詰めて溶解業者に持ち込めば、溶かしてくれる。「機密書類 溶解 〇〇市」などと検索すれば、地元の各種業者が表示される。

 法人専門の事業者もあるが、個人の持ち込みが可能な事業者もある。たいて有料だが、宅配便で元払いで送ってくれれば溶解処分を無料で引き受けるという事業者もある。回収してくれる事業者もある。郵便局でも「日本郵便の紙のリサイクル 機密文書溶解サービス 」を有料で取り扱っている。

 こういった溶解処分の事業者を利用する場合でも、手紙、手帳、日記、名簿等の個人情報など、「本当に見られたくないもの」は、あらかじめ、自分の手でシュレッダーにかけたい気がする。


終活・生前遺品整理を始める(2)

遺品整理や生前整理の事業者は多いが、他人の目に触れる前に、まずは、5つの区分を意識して、生前に、一回は、自分自身で処分や引継を行ったらどうだろうか。 

高齢者として必要な準備はしておく 

 元気そのものだったのに、急に亡くなる(突然死)という人もいる。60代でも、急に認知症の症状が出てくる人もいる。高齢者になったら、いつ、何があるかわからない。「…



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