投資の失敗は老後破産の主要原因の一つ

概要

慣れない投資には関わらない

 低金利が長期化している一方で、物価や賃金が上昇していることから、現在、我が国の銀行預金は実質的には目減りしている。そういう状況の中で、「 手数料の無いネット証券で、高配当の優良株を長期保有し、年金生活の足しにしている」、「新NISAの成長投資枠を利用して、外国株や投資信託に投資している」という人も多いのではないか。 

 それはそれで、低金利の時代においては、妥当な手法だ。ただし、言うまでもなく、株も投資信託も時価評価は常に変動する。何割も増えることもあれば、元本割れする場合もある。その結果、投資の種類と選択、相場の変動や運、本人の性格と知識次第では大損する可能性も大きい。

 株や投資信託などは元本保証ではなく、時価は常に変動する。相場によっては、損失が確定してしまうことから「換金しにくい時期」もある。また、熱中すると、生活費まで注ぎ込んだり、信用取引や先物取引、FX取引などハイリスクハイリターンの投資などに発展しやすい。成功するためには、投資や株式に関する知識や資金管理が求められる。投資には、「リスクと前提条件」がある。

 投資といっても、暗号資産投資等の金融商品や、不動産投資、金やプラチナの取引、そのほか、聞いたこともない名前の投資など、さまざまな種類がある。銀行で扱う投資信託や預金も投資だ。どれも、知識や資金管理も十分でない素人が急に始めて、順調に成果を上げる、必ず大儲けできるといった保証はない。

 本人の知識や性格にもよるが、投資の規模や内容がエスカレートして莫大な損失を招いてしまうとか、損失を取り戻そうとして、さらに大損してしまうという傾向は、おそらく、すべてのギャンブルと同様ではないか。一般論としてだが、ハイリターンのものは必ずハイリスクであり、基本的に元本保証ではない。、ギャンブル性が高いものは、儲かる場合もあるが、当然、大損をする可能性も高い。

 インターネットで検索すれば、「投資で大損した」とか、「投資信託で銀行員に騙された」などといった話が出ている。これらのネットの話の真偽や事情はわからないが、少なくとも、相場の変動や損失は銀行員や証券会社の社員のせいではない。各種の投機的な資金運用をする以上は、利益だけでなく、損失も手数料も責任も常に自分が負わなければならない

必ず大儲けできる話なら、客には売らない

 退職前後から、急に銀行等からの郵便物やメールが増えたのではないか。「年金相談会」、「投資信託のご案内」、「保険のご案内」、「無料・投資勉強会」のような内容は、当然、慈善事業ではない。ギラギラした営業戦略だ。「金融に無知な高齢者が、退職金や老後資金を背負ってウロウロしている姿」が、カモネギのように見えているに違いない。

 退職したばかりの高齢者は、この先、退職金・老後資金の投資、年金の受給開始、生命保険、相続、不動産売買などの大きな取引の可能性があるから、丸ごと取り込める可能性がある上客だ。

 高齢者を狙った振り込め詐欺電話、偽メール、偽郵便、点検商法などの危険性は有名だが、退職金や老後資金等を狙う銀行や証券会社等からの各種の勧誘も危険だ。どのようなセールストークをしていたとしても、あるいは、相手が銀行や証券会社だから、大企業だから安全だと思ってはいけない。

 投資やギャンブルは、全体的・長期的に見れば、「損をする人が大勢いるからこそ、その損害の総額未満で、誰かが得をすることができるという仕組み」が根底にあるような気がする。「競馬やパチンコで大儲けしたと吹聴する人の背後には、その何倍も大損した人がいる」と考えるべきだろう。宝くじも同じだが、皆が儲かるのなら、そのギャンブルは赤字になるので、運営が成立しない。

 株式投資も不動産投資も売買だ。買う人がいるから売れる、売る人がいるから買える。例えば、Aさんが、ある株を買った後に30%上昇して利益を確定できたとすれば、その高い値段でBさんが買ってくれたということだ。Bさんが高値でつかんだ後、仮に30%下落して損失が確定したとすれば、Aさんの利益とBさんの損失とは釣り合うのではないか。

 いずれにしても、古今東西、「お金の関係で、全員が簡単に必ず儲かる、うまい話は無いと思った方が良い。あったら、それは詐欺だ。「必ず大儲けできる話なら、客には売らない。他人には教えない。全部、ひそかに自分で抱えているはずだ。」と疑うべきだ。

 「本当に価値のある必ず儲かる投資用マンション」ならば、見知らぬ客に売ったら、もったいない。全部、自己所有か社有財産のままにしておき、自分で儲ければ良いはずだ。実際、優良なオフィスビルやマンションを売らないで自社保有し、賃貸している不動産会社や資産家も多い。

 また、縁もない人に、「上場が内定した未公開株を内緒で売りますよ」、「インサイダーになるから内緒ですが、必ず大きく値上がりする株を教えますよ」などということはない。どちらも、自分または自社で保有し、収益を確保するはずではないか。仮に、売るとしても、日ごろ、取引のない人にまで、「うまい話」が回ってくることはないはずだ。

 なお、「うまい話」に乗った結果、あるいは相場が崩れた結果、大損をしたとしても、投資を勧誘した人達のせいではない。うまい話に乗って儲けようと判断した自分に責任はある。なぜならば、もし、自分が大儲けした時には、知らん振りをして懐に入れていたはずだからだ。

 そこは、各種の投資に限らず、競輪・競馬・パチンコなど、他のギャンブルと同じではないか。馬券で損をしたからといって、競馬場の職員に文句を言う人はいないだろう。株や投資信託で損をしたからと言って、証券会社の社員や銀行員に文句を言っても始まらない。なぜなら、彼らが相場を動かしているわけではないからだ。投資を紹介しただけであり、損得には何の責任もない。

 いずれにしても、銀行・証券会社などは、いざとなったら、絶対に相場の損失補填はしてくれないということだけは確かだ。顧客の損失を補てんすることなど、予定もしていないだろうが、そもそも、金融商品取引法第39条で禁止されているからだ。

「退職金で投資デビュー」は、老後破産に向かう道だ 

 実際問題として、留意しなければならないことは、何はともあれ、投資の失敗は、「老後破産」の主要原因の一つとされているという事実だ。「なけなしの退職金を注ぎ込んでの投資デビューは、老後破産に向かう道だ」と言う専門家もいる。高齢者は、ますます、頭脳の働きが落ちてくることが想定される。投資の専門家集団でも損失を出す場面がある。今後、年金以外の収入が途絶する「無知、未経験の素人」が、人生をかけた博打をする必要は全く無い。

 長年かけて築いた老後資金や退職金は、「投資用の余剰資金」ではない。老後の生活費や老人ホームの資金や医療費だ。「余剰資金を持たず、投資自体に慣れない高齢者」が、たまに退職金などの小金(こがね)を手にしたからと言って、「生活費や老後資金を流用しての投資」を始めるべきでない。預金などの財産がなくなるだけでなく、自宅を売却しても穴埋めできないような「莫大な借金を遺族に残す」という事態にもなりかねない。

 余生においては、もはや、若い時のように「頑張って働いて返済する、貯金する」ということができない。そこで、どうしても、「今、持っている資産の安全な管理・保全」が非常に重要になる。年金収入だけの生活に入れば、もう、今後、一生、まとまった金は入ってこない。損失を被ったら、どうにも挽回できない身なのだ。病院や老人ホームに入れなくなるばかりか、明日からの日常生活にも困るかもしれない。だから、高齢者は、「資産を増やす努力」ではなく、まずは、「減らさない努力」をすべきだ。

 無職・無収入になった高齢者にとって、退職金・年金・老後資金は、生活資金だ。それ以外の「生活に影響しない余裕資金(ゼロになっても大丈夫な資金)のみで投資を行うこととする」ならば、かなりの資産を保有している者でなければ、投資には手を出せないはずだ。老後資金以外に、別に投資資金を持つ高齢者でなければ、リスクのある投資は避けるべきだ。「なけなしの老後資金」を賭けてチャレンジすべきではない。

 新NISAにより誰もが投資に手を出すようになった。その後、株価は概ね順調に上昇していたが、2024年8月には株式・アメリカ株・投資信託などの暴落が起きた。あせって売り、取り返しのつかない損失を出した人も多いと思う。

 しかし、株を売ることができたのは、それを、その値段で買う人がいたからだ。狼狽売り(ろうばいうり)で安値で処分された株式を大暴落の当日から総力で大量に買い集め、大儲けした人もいる。 

 「潤沢に投資資金を持っている人は、生活に支障のない範囲で、ゆとりを持って投資ができるので、ますます金が集まってくる」という残酷な仕組みが経済というものではないか。やはり、「素人の投資・ギャンブル」、「なけなしの金でやる投資・ギャンブル」は、悲しいものなのだ。

資産は遺族にもわかるように整理しておく

 資産明細、金庫の鍵、銀行のパスワードなどを遺族にもわかるように整理しておけば、自分が忘れた場合、認知症になった場合、死亡した場合などに、家族(遺族)のために…


<広告>